
VS滞納者1
| 「竹中さん、この滞納者の処理をお願いします。今月末で3ヶ月滞納になります。」 3ヶ月滞納??3ヶ月滞納といえば滞納者様には退去していただくかどうかのラインだが?なぜ3ヶ月も溜まって報告がくるのだろうか?報告までの経緯を聞いてみた。 「いやぁ〜、忘れてました。」 ヘラヘラしやがって、殺したくなる。文句の一つでも言ってやろうか?いやいや同じ社員同士で喧嘩するのは良くない。このストレスは滞納者にぶつけよう。しかし次からは早めに報告してね、とやさしく釘を刺す。 滞納処理というのは実にタフな作業である。1ヶ月滞納の場合はその月のと合わせて2ヶ月分、3ヶ月滞納の場合は4ヶ月分支払いをさせないと滞納は解消しない。1か月分の家賃すら滞納する家賃滞納者がまとめて支払える訳がない。それをあの手この手を使い何とか支払いをさせないといけないのでなんとも厄介である。 もちろん滞納家賃の回収率が悪ければ自身の給料にも影響する。だから社内では3日遅れたら報告してくれと賃貸部の人間にはいつも言っている。建前は早期解決、本音は給料のためである。しかし、それも虚しく3ヶ月滞納。敵はどうやら社内にもいるようだ。 しかし報告がきてしまったものはしょうがない。なんとか処理しなくては。気を取り直して書類に目を通す。 ・滞納者 男 25歳 ・職業 建築業 ・連帯保証人 父親 言いたくはないが家賃滞納者は圧倒的に肉体労働者が多い。肉体労働者は給料が安いのかと思えば実はそうでもない。友人にも何人か肉体労働者がいるが、そこそこの給料をもらっている。もちろん家賃も滞納していない。やはり社会性、常識がない人間が多いのではないかと疑問を持ってしまう。しかし、そんなことを考えたって滞納は解消しないので早速滞納処理を開始する。まずは電話による督促である。 「おかけになった電話番号は現在使われておりません。番号をお確かめになって・・・」 アナウンスが虚しく鳴り響く。このアナウンスを聞くたびとても切なくなる。家賃滞納者はたびたび電話番号が変わる。長く付き合った滞納者の中に滞納が解消するまでの7ヶ月間の間に番号が3回も変わった奴がいた。通話料滞納で契約解除。他社で契約。通話料滞納で契約解除。最後はプリペイド携帯。おそらくこんな感じだろう。次は職場にかけてみる。 「○○さんは半年ぐらい前に退職していますが。」 これも家賃滞納者によく見られる特徴である。頻繁に仕事が変わる。まじめに働けよ。まったく。とにかくこれで本人と話をするためには現地に行かなくてはならなくなった訳である。賃貸借契約の解除の書類を一式用意して現地交渉に向かうことにする。これだけ家賃を滞納して一切連絡してこないような奴をこれ以上住ませておくわけにはいかない。もし今回の滞納が解消したとしても、また滞納するに違いない。今後の事を考え退居させることを最優先に交渉を行うことにした。 現地到着。呼鈴を押す。反応がない。もう一度押す。やはり反応はない。留守の様だし出直すとするか・・。って、そんな訳はない。それでは素人だ。家賃滞納者というのは普通に居留守を使うのだ。電気メーターをチェックする。ガンガン回っています。夏場に窓とカーテンを閉め切っているのだからおそらくクーラーをフル稼働させているのだろう。ドアポストを開いてみるとひんやり冷たい風が吹いてくる。在宅確定。 ドアを叩き名前を呼ぶ。しかし出てこない。中にいる事はすでに分っている。ここから先は根比べだ。しつこくドアを叩きさっきより大きな声で名前を呼ぶ。それを何回も繰り返す。15分ほど経過。中々粘りやがる。滞納者も部屋の中で同じ事を思っているだろう。中々粘りやがる。早く帰れなどと。しかしこれぐらいで諦めて帰る私ではない。さなにはげしくドアを叩く。すると中から慌てて男がでてきた。肉体労働者の割りには体が細く、ひどく気弱な感じの男だった。なぜすぐ出てこないのか問い詰める。 「いや・・・、ちょっとびっくりしまして・・・、何か御用ですか?」 何か御用ですかだぁ?御用があるから来てるんだろ。不動産屋の者であると身分を明かす。 「???」 この野郎。しらを切るつもりか?単刀直入に家賃を支払えと伝える。 「は?払ってるはずですが?」 払ってないから来てるんだろ?今朝口座も確認してきた。間違いなく払っていない。しかし嘘をついている様にも見えない。 「ちょっと確認するので待っててもらえますか?」 この男どうやら支払いを誰かに頼んでいたらしい。支払い能力がない為に滞納を続けていると思い追い出す気満々で来ていた私は少し拍子抜けしてしまったと同時に案外早く片付きそうだと安堵した。しばらくすると電話を終えた男が部屋からでてきた。どうなったのかと尋ねる。 「実は、支払いは今彼女に任せていて、お金も渡してあるんです。家賃の振込先が分らなかったので支払いが出来なかったと言っています。すいません。」 振込先が分らなかった。それで3ヶ月もほったらかし。うん、腑に落ちない。しかしこの男が支払いを任せていると言っているのは嘘ではないだろう。腑に落ちないのは彼女に対してである。どうせ使い込んでるんだろうなと思いながらもそのことは伝えず、いつ支払うのかと尋ねる。 「あ、大丈夫です。彼女が明日全額振り込むっていってますので。」 なんて事だ。この見た目の弱々しさ日本代表ぐらいの男から自信がみなぎっている。私が彼女に対して持っている疑念など微塵も持っている様子ではない。なんて真直ぐな目なんだろう。賭けてみよう、この男に。信じてみよう、彼女を。今日のところは新しい電話番号と職場の情報を聞き帰ることにした。 翌日、私は急ぎの仕事にとりかかっていた。忙しくしていた為、昨日のことなどすっかり忘れていた。今日の入金の確認もせずに帰路につこうとしていた時ふいに携帯が鳴る。昨日の滞納者からだ。 「振込ありましたか?あったでしょ?」 まだまだ自信にみなぎっているようだ。しかし今日は入金確認をしていない。明日確認して連絡してもいいかとたずねると、 「え?してないんですか?何でですか?」 いや、何でですかと言われても。いろいろ忙しいんだよ。滞納者のペースで物事動いてると思われたらたまりません。が、せっかく電話を頂いて思い出したので入金確認をすることにした。いいですね。最近は。インターネットで全て出来るから銀行まで行く必要がありません。コンピュータを起動させて銀行のサイトにログインする。さて本日の入金は・・・・・・・ありません!!いや、だろうとは思ってたんだけどね。かすかな期待は裏切られる結果となり、それを彼に伝えた。 「え?何で入ってないんですか。」 いや、何で入ってないんですかと言われても。振込みに行ってないから入ってないんだよ。振込みに行ってない理由はこっちが聞きたい。とりあえず彼女からの入金がない以上あなたに払ってもらわなくてはならない。払えないようであれば連帯保証人に支払ってもらうことになる。連帯保証人も払えないってことになれば早急に出て行ってもらうことになる。こちらが言うべきことを全て言うと男は小さく反応した。 「また明日連絡させてもらってもよろしいですか?」 だめだ。そういう訳にはいかない。今すぐ事務所まで来てくれと男を呼び出す。本来わざわざ呼び出す必要はなかった。男と彼女の関係性とこれまでの経緯が聞きたいというただの興味本位の行動だった。ほどなくして男が事務所にやって来た。昨日までの自信にみなぎった様子はなく日本代表不動のメンバーぐらいの雰囲気になっていた。まず手始めに彼女に連絡は取ったのかと尋ねてみた。 「何度も電話かけているんですけど、電話に出ないんですよ。」 まぁ、そうだろうな。これで彼女からの支払いはまったくアテにならないものになった。ではどうやって支払いますか?連帯保証人に請求してもよろしいですかと淡々と詰め寄ってみる。 「それは待ってください。次の給料でまとめて3ヵ月分必ず支払いますから。」 連帯保証人に請求されるのがよほど嫌なのだろう。男は支払能力を証明する為に自分の給料明細を持ってきて私に見せた。手取り約30万円。確かに払えないことわない。どこか消費者金融あたりからつまんでなければの話だが。もし支払いが出来なかった場合連帯保証人に請求することと、連帯保証人が支払いできなかった場合即座に退居することを条件にその申し出を了承し、その旨を一筆書かせた。 さて本題に入ることにする。今回の本題は家賃を支払わせることではない。男と彼女の関係を聞き出し私の興味を満たすことだ。なんでこんなことになったんだと優しく問いかける。すると男はまったく答える必要はないにもかかわらず語り始めた。 「実は・・・」 彼女と付き合い始めたのは3ヶ月ほど前。ちょうど家賃滞納が始まった頃だ。付き合い始めると同時に結婚の約束をしたらしい。そして彼女から結婚資金などのこともあるしお金の管理を任せて欲しいと言われ、最初は渋ったものの気の弱い男は押し切られてしまった。 彼女と会うのは月に2回。月の半ばに1回。月末の給料日に1回だと言う。月末の給料日には自分の生活費の7万円を差し引いた全額を彼女は持って帰る。家賃を払って残りは貯金しておくと言って。 典型的な結婚詐欺だ。ベタすぎる。こんなものに引っかかる人間がいるなんて。作り話という可能性も考えられるが、目の前で語っている男からそれは感じ取れない。一緒にその彼女の家まで行って話をしてみようと申し出てみる。善意ではない。これも興味本位からの行動である。 「家を知らないんです・・・」 彼女は実家で親と同居しているので男に気を使わせてしまうという理由で家に行くことを拒否されたのだと言う。結局分っているのは名前と携帯番号だけという話だ。名前も偽名ではないかと疑念まで思い浮かんだ。何にしてもこれで彼女を探す手段はなくなってしまった。最期に男がつぶやいた。 「僕・・・騙されたんですかね?」 うん、そうだね。私はそっとトドメを刺した。私の興味を満たした男はもう用済みである。早々にお引取り願った。 ふたを開けてみると結婚詐欺。なかなか楽しめた案件だったが一つ心残りなのは彼女の方と絡むことが出来なかったことだ。騙した女が賢かったのか、騙された男が馬鹿だったのか。余談だがその後家賃は遅れることなく入ってきている。 |
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